トマトとオリーブ


でこそ料理という語彙を用いて,文化に支えられた郷土のスペシャリティーなどと言うけれども,もともとは食は生き延びるためであって,生まれた土地で育つ食材,それもほとんどの庶民にとっては安い値段で求めることができる数種類の食材または自給自足の食材に限られていたはずです。

pasta w640飽食の時代に生まれ育ち,スーパーであふれる食材を見ていると,イタリア料理といえばオリーブ油,味付けもトマトを用いているので,じゃイタリア料理だから,ということで輸入されたオリーブ油や高価なプティトマトなどを購入しますが,本当はこれらは地元の安い食材だったから用いられてきたということもたまには認識していいのではないでしょうか。

イタリアのリパリ諸島に旅行した折,季節はずれだったので観光客はほとんどいませんでした。新聞も「旅行者が来る季節しか置いていません」と云われ,八百屋の店先にも数少ないズキーニしかありませんでした。

ローマで数人のイタリア人と知り合い,自宅にもお邪魔しましたが,食生活もとても質素な感じでした。「ドイツ人はたくさん食べるからあんなに太るのよ」とイタリア人のお母さん。

夜,きちんとした食事をしているのは観光客が多く,イタリア人は夜はピツァのみ,イタリア人のイメージである,大きなテーブルを囲んで大家族でフルコースのような食事をとるのは週末のみのようです。

トルコからギリシャ,東欧,そしてイタリアまで,オリーブとトマトは昔から毎日のように用いられてきた食材なので,人々の味覚の奥にしっかりと刻み込まれています。

ナポリの南方のトマトが世界で最も美味しいといわれますが,一般的にはトマトは安く,だれでも栽培できるので使用されてきたのです。東欧で最も使用されるパプリカも同じ理由です。

もうひとつの要素は気候でしょう。

1970年からロンドンに住んでいるミュージシャンは野菜嫌い,健康のためだからと我慢して食べているような友人なのですが,あるとき「イタリアに行ったら生サラダ食べるよ,食べられるだけじゃなくて美味しいんだよ,ほんとに」と言いながら,英国と違って太陽輝くイタリアの気候のおかげだと言っていました。

さらに加えるならば,中国から,おそらくはシルクロードによって「麺の作り方」がもたらされたのは革命的だったと察します。

麦の粉は欧州全土で,最も重要な食材として多様な主食に用いられていますが,オリーブ油,トマト,パスタ,これらの組み合わせが完成したのはイタリア人にとって幸運でした。

あとは,香草と太陽。

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ドイツに長年在住している日本人女性が先日,「私は最近大豆が切れてきて調子が悪い」というのです。理解できずにいると,醤油・味噌などの食事を数日とっていない,ということらしいのです。

醤油・味噌の味が体から抜けると,体調だけではなく,精神的にも変化を及ぼすとはすごいですが,イタリア人にとっては,トマト・オリーブ油に相当するかも,とふと思いました。

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