ラーメンブームに乗り遅れた中国人の誤算


本の学校教育では「華僑」という言葉で,海外ビジネスで成功して権力も拡大している中国人グループという教わり方をしていたような記憶がある。
幼いころの記憶は思い込みも重なって頭に刻み込まれているので,ヨーロッパでも中国人の事業をみると,いつも華僑がぼくの頭にあった。
消え始めたのは数十年も経ってからだ。

chinatown w640h360

アメリカや英国の都会ではチャイナタウンができるほど多くの中国人がいたけれども,ドイツにはないどころか,中国人の姿は全く見られなかった。
80年代の終わり頃,町を歩いている中国人ビジネスマンをときどき見るようになった。すぐ見分けが付くのは,日本人と異なり,安っぽいペランペランの紺色の背広を着ていたから。
ドイツに限った話だけれども,ほかの中国人は,学生も含め,全くいなかった。

中華レストランの経営者の話によると,「ビザが下りないので大陸の中国人は来れない。香港や台湾の中国人は英国やアメリカに行く。なんとかビザを取得してドイツに滞在している中国人はみんなレストランで働いているから,町中で見ることはないんですよ」ということらしい。
ということらしかった。

それが一気に変わり始めた。
わずか(?)十数年後にデュッセルドルフに戻ると,見るからに上質な生地の装いをしているビジネスマンや有名ブティックの袋を抱えた多くの中国人男女の姿がケーニッヒスアレー(デュッセルドルフ随一の高級店舗が並んでいる通り)で見られた。
思えば,90年代にパリに行った折も,オペラ界隈の高級ブティックに大変な数の中国人が群がっている光景に驚いた。
知らなかったのは私だけかもしれない。

また,質素でモノがない貧しい社会からようやく抜け始めた中国というイメージは,考えて見るととても失礼だし,誤っていたことを認識させられる。
今ドイツに滞在しているほとんどの中国人が生まれたころはすでに資本主義の物質的な豊かさは,少なくとも都会では普通になっていたので,考え方,振る舞い,ファッション感覚,モノの所有などなど,日本や欧米の若者たちとなんら変わるところはないのだ。

変化の詳細は知らないけれども,中国大陸のあらゆる層の中国人がドイツにも押し寄せてきたことは間違いない。
デュッセルドルフにも拠点を置いたHuaweiなどのグローバル事業と共に,飲食業,日本食,そしてラーメンに目を付けた中国人も,広く知られるように少なくない。

しかし,少なくとも,ドイツでニッポンラーメン事業に参画した中国人は後手後手に廻り過ぎた。
日本のラーメンが流行り始めた90年代は,ラーメン事業に必要なのは経営能力で「ラーメンの質」など問われることはなかった。おそらく,日本でラーメン店を開いているような人ならば,9割9分,ヨーロッパでも成功しただろう。
つまり,日本なら,美味しくないと一掃されるようなラーメンでもヨーロッパのラーメンブームに乗れたのだ。

それが,ブームと思われていたニッポンラーメンが徐々にスタンダードな一品料理として確立し始めた。
となると,経営能力に併せ,本来のラーメンの質も重要になる。
日本人もラーメンの質に凌ぎを削り始める。
つまり,ラーメン好きのヨーロッパ人たちが,日本人顔負けのラーメン批評も行うようになった。

素人相手に簡単に騙せる商売だったのに,競合相手となる新規店舗が竹の子のように出て来る。日本語名で日本語メニュー,従業員もアジア人なので顔つきも同じ。にもかかわらず,現地人の厳しい目が注がれ始めたと(中国人は)考えたほうがいい。

中国人,特に大きな資本を持った中国人の事業者は長い間,中華レストランは,広さと多種多様なメニューは鉄則とばかりに,こだわり続けていた。
道路沿いの入り口の壁,全面がガラス戸で中の様子が外から良く見え,カウンターの客席で食している客や,当然ながらオープンキッチンとなっているサービススタッフの働きぶりも見えるスタイルの料理屋が流行り始めても,この鉄則を崩すことはなかったのは不可解としか言いようがない。

最近やっと,中国人をはじめとするアジア人の個人経営者が,外から見えるオープンスタイルの食堂を始めた感じがする。
良い傾向だと思うけれども,ニッポンラーメンの相乗りはもうダメだろう。
ダメだと思う2つ目の理由としては,日本のラーメンの人気は30-40才以下の若者に限られているということと,田舎はもちろん小都市でもニッポンラーメンは全く知られていないことが挙げられる。

寿司ならまだ行ける。まだ行けるどころか,寿司なら,少なくとも欧州の北半分の全土において大きな可能性が開かれている。

mailing logo 1

ゲスト 646人 と メンバー0人 がオンラインです

Euro-Japan.net はクッキーを使用しています

ただ,サイトの表示や機能および速度や動作を向上させる最低限のクッキーのみで,ユーザーの動向情報を把握するトラッキングクッキー(グーグルアナリティクスなど)は使用しておりません。
従って本サイトの閲覧においては違いはありませんが,EU一般データ保護規則によってクッキー使用の注意書きが定められているため表示しております。許諾または拒否を選択できますが,拒否された場合,速度が落ちたり,一部の機能の使用や閲覧ができない可能性もわずかながらあります。
拒否によって安全上の問題が閲覧者に及ぼされることは全くありません。